「放っといてほしい」という相談

こんにちは。キャリアコンサルタントのあらたです。

今回も、私がキャリアコンサルタントとして経験した
事例をお話しします。
「何もしたくない、好きなものもない、放っといてほしい」
と言う、20代前半の男性の例です。

キャリアコンサルティングを受けに来たのも
自分の意思ではありませんでした。
親御さんの勧めで、イヤイヤ来られました。

相談の前に、親御さんから電話で聞いたところでは
二浪しましたが希望の大学に入れず
両親の勧めにしたがい、専門学校に行きましたが
それもやめてしまったそうです。

決して不真面目でも、グレているのでも
引きこもっているのでもありません。

散歩や買い物には出かけていきます。
親と話をしないわけでもありません。

ただ、親はせめて専門学校を卒業して
正社員として就職してほしいと言うのですが

それはイヤで、ではあらためて大学を目指すかというと
それもイヤだと言うそうなのです。

彼は来てはくれたのですが
自分からは何も話そうとしませんでした。

自分のプライベートなことを
知らない人に話したくないという人は、よくいます。
そこで、私は親御さんには伝えない、とまず言いました。

もし伝えてほしいことがあれば伝えるけど
これはあなたと私のあいだの話ですよ、と。

キャリアコンサルタントには守秘義務がありますので
相談の中で聞いたことは
本人が伝えてほしいと言ったこと以外は
他言しない原則です。

それでも、私という他人を目の前にして
彼はまだ、私を信用することはできていないようでしたので

相づちを打ったり、彼の言ったことを
要約したりしながら

彼の言うことをよく聴き、理解している、
興味をもっている、彼を否定しないことを
示すようにしました。

40分ほどたったころ、ポツポツとですが
彼は質問に答えてくれるようになりました。
「専門学校の授業はおもしろくなかった?」
「おもしろくなかった」

そして
「こんなことやってても意味ないと思ったんで」
と付け加えたので
「どうしてそう思ったんですか?」と聞きました。

「WEBデザイナーにはなりたくないと思ったんで」
「うん。WEBデザイナーにはなりたくない。
どうしてでしょう?」

彼は黙ってしまい、「うーん」と言うだけです。

「仕事が、つまらなそうだとか。きつそうだとか。どうですか?」
「ていうか。」と彼は言って
しばらくして「イヤだから。」と投げつけるように言いました。

「イヤなんですね。WEBデザインの仕事が嫌いなんですね。」
「そう。」

「じゃあ、何ならやってみたいですか?」
「何も。」
「そうですか……」

「ていうか、親は、父親は、何をやってもダメだと言う。」
「お父さんは、あなたが何をやってもダメだと言うんですか……」
「父親がダメだと言うから。何もやりたくない。」

二浪してから、入学したWEBデザインの学校がつまらなくて
WEBデザイナーをやりたくなくてやめてしまい

でも他にやりたいことも見つからないという状態のときに
親に、お前は何をやってもダメだと
自信を打ち砕くようなことを言われたら
子どもは意欲をなくしてしまうかもしれません。

たしかに親にしてみれば、お金を払って専門学校に入れたのに
その前は浪人もさせたのに、という気持ちでしょうけれど……。

そこは彼もわかってはいるのです。

「お父さんにそう言われて、あなたはどんな気持ちですか。」
「父親が、嫌いです。」
「そうなんですね……お父さんが嫌いだと思うんですね。」

「でも、私は、何をやってもダメということはないと思います。
あなたが興味をもてて、上手にできることが
きっとあるはずなので、探してみませんか?」

と私は言いました。
彼はうなずいてくれました。

それから2回目の相談では
大学に進学する、
別の専門学校に行く、
就職する
という選択肢を、一緒に検討していきました。

彼の場合、親との関係で
親が奮起させようとして言った言葉が
むしろ彼のやる気を削ぎ、自信を失わせていたのです。

まず、彼に、自分は何をやってもダメな人間ではないと
感じてもらう必要がありました。

それには、一生懸命に彼の話を聴いてくれて
理解してくれる、共感してくれる人がいると
いうことを、実感するのが一番です。

一番身近なところにいる家族は、身近であるからこそ
感情が先に立ってしまい、本音で話すことが
難しいかもしれません。

知らない人と、こんな個人的なことを話すなんて
と思うでしょうが

知らない人だから話せることもあるでしょう。
今の苦しさを抜け出す一番の近道の一つは
キャリアコンサルタントと話すこと
ではないでしょうか。

周囲の方で、キャリアに関わるような進路で
立ち止まっている方がいたら、ぜひ相談に行ったらいいと
ご紹介してくださいね。

お待ちしています。